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東京地方裁判所 昭和58年(ヒ)69号 決定

申請人

鈴木あきら

被申請人

横河北辰電機株式会社

右代表者

清水正博

主文

申請人が所有する株式会社北辰電機製作所発行にかかる記名式額面普通株式(一株の金額五〇円)一万株の株式買取価格は、一株につき金二三八円とする。

理由

一申請人は、申請人所有の株式会社北辰電機製作所(以下「北辰電機」という。)発行にかかる記名式額面普通株式(一株の金額五〇円)一万株(以下「本件株式」という。)の買取価格の決定を求める旨申し立てた。その理由の要旨は、

「1 申請人は、本件株式を所有しているところ、昭和五七年一二月二〇日開催された北辰電機の臨時株主総会において、被申請人会社(旧商号株式会社横河電機製作所)を存続会社とし、北辰電機を解散会社とする合併契約書を承認する決議がなされたが、申請人は、右合併には反対だつたので、右総会に先立ち、北辰電機に対し同月九日付書面をもつて合併に反対する旨の意思を通知し、かつ右総会において右合併契約書の承認に反対した。

2 そこで、申請人は、北辰電機に対し昭和五七年一二月二二日付書面をもつて申請人所有の本件株式を買い取るべき旨の意思表示をし、その後同会社と買取価格につき協議したが、決議の日から六〇日以内に協議が調わなかつた。

3 被申請人は、昭和五八年七月四日右合併の登記をしたので、北辰電機の一般承継人となつた。

4 よつて、申請人は、商法四〇八条ノ三第二項、二四五条ノ三第三項に基づき、本件株式の買取価格の決定を求める。

なお、その価格は、諸般の事情を勘案して、一株あたり三一〇円をもつて相当と思料する。」

というのである。

二よつて判断するに、本件各資料によれば、申請人主張の1ないし3の各事実を認めることができ、また、本件申請が商法四〇八条ノ三第二項、二四五条ノ三第三項所定の期間内になされたことは、本件記録上明らかである。

そこで本件株式の買取価格について検討を加えるに、商法四〇八条ノ三第一項によれば、右価格の決定基準は、「承認ノ決議ナカリセバ其ノ有スベカリシ公正ナル価格」とされており、その趣旨は、通常合併承認決議の影響を受けることなくして形成されたと想定される合併承認決議当日の交換価格をいうものと解せられる。しかしながら、商法が同条で合併承認決議に反対する株主に買取請求権を認めているのは、会社合併の場合に、相手方会社の内容、合併条件などによつて不利益を被るおそれがある少数株主について、経済的な救済方法を図るためのものであるから、本来合併計画の公表後に、右事実を知りながら新たに株式を取得して株主となつたような者については、右のような救済方法を当然には顧慮する必要がないというべきである。したがつて、このような株主について買取価格を決定するにあたつては、商法四〇八条ノ三第一項の規定が直ちに適用されるのではなく、むしろ右規定の趣旨を鑑みて、その価格は、合併を前提として形成される市場価格によるべきであり、また取得時の価格をこえることはないものと解すべきである(けだしこのような株主になお同条の適用があるとするなら、不当な利益を与えることがありうるからである。)。

今本件についてみるに、本件各資料によれば、横河電機製作所と北辰電機は、ともに工業計器分野での大手企業であるところ、両社は、昭和五七年八月三一日、合併契約書に調印をなし、翌年四月一日付で合併することの合意が成立したこと、昭和五七年九月一日、日本経済新聞はじめ各紙に右合併についての報道がなされ、同日両社より右事実が公表されたこと、同年一〇月二八日に北辰電機により臨時株主総会招集のため、同年一一月一二日を基準日と設定する旨の公告がなされたこと、申請人が北辰電機に対し名義書換請求をしたのは同年一一月五日、同月九日の両日、各五、〇〇〇株についてであつたことなどが認められる。右事実によれば、申請人が名義書換請求をした当時(特段の事由のない限り、会社に対する関係では、この日を株式取得日と考えるべきである。)、既に申請人は、両社の合併を知悉していたことは容易に推認しうるところである。そして本件各資料によれば、申請人が名義書換請求をした一一月五日、同月九日の株価(終値)は、それぞれ二四五円、二三二円であつたこと、また北辰電機の臨時株主総会において合併承認決議のなされた昭和五七年一二月二〇日の株価(終値)は、二三〇円であつたことなどが認められるから、結局本件株式の買取価格は、右二四五円と二三二円の平均値(前記のとおり両日、同数の株式の名義書換請求がなされているので平均値によるのが相当である。)である二三八円(円未満切りすて)を超えないものでありまた前認定の事情などを勘案すれば、右価格をもつて相当と解すべきである。

三よつて本件株式の買取価格を一株につき二三八円と定めることとし、主文のとおり決定する。(竹中邦夫)

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